食器との出会い

旅の途中で出会った、素敵な食器たちの物語

喫茶店を営む私には、小さな楽しみがあります。 それは旅先で出会った素敵な食器を、一つずつ大切に持ち帰ること。 異国の小さな陶器市で、路地裏の古い骨董店で、あるいは地元の作家さんの小さなアトリエで。 見つけた瞬間、そのフォルムや色合い、手触りに心惹かれた器たち。 これらは、当初は私のささやかなコレクションとして、棚の奥でひっそりと佇んでいました。

「せっかくの器たちを、このまま眠らせておくのはもったいないな」と。 せっかくなら、私の喫茶店に訪れてくださるお客様にも、この器たちの物語を味わっていただきたい。 そんな気持ちで、一つひとつ選び、実際にお店で使うことにしました。

このページでは、そんな器たちが私のもとへやってきた小さな旅の物語を、少しずつ綴っていこうと思います。 あなたのカップに注がれるコーヒーや紅茶が、器とともに、より豊かな時間になりますように。

コーヒーカップ

九谷焼のコーヒーカップ

九谷焼【北陸地方/石川県】

最大の特徴は、「九谷五彩(くたにごさい)」と呼ばれる鮮やかな色彩を用いた上絵付けにあります。 赤、黄、緑、紫、紺青の5色を基調とした、華やかで重厚感のある絵付けが特徴です。 これらの絵の具は厚く盛り上げて塗られるため、立体感や艶やかさも生まれます。

に、さらに顔料で絵付けを行い、再度焼き上げる技法です。 これにより、鮮やかで細かい絵柄を表現できます。 「色彩のハーモニー」と「絵画的な表現」が際立つ、非常に美しい焼き物です。

波佐見焼のコーヒーカップ

波佐見焼【長崎県東彼杵郡波佐見町】

特定の決まった技法や様式に縛られず、時代や生活様式に合わせて柔軟に変化してきたため、「特徴がないのが特徴」とも言われます。 これにより、伝統的なものからモダンなものまで、非常に幅広いデザインの器が生まれています。

磁器が中心で、陶石を主原料としているため、陶器に比べて丈夫で割れにくく、吸水性がほとんどありません。 そのため、汚れがつきにくく、手入れがしやすいという利点があります。食洗機や電子レンジに対応しているものも多く、日常使いに非常に適しています。

江戸時代から庶民の器として大量生産されてきた歴史があり、現在もその流れを受け継いでいます。 高品質でありながら手頃な価格を実現しているのは、生地作り、絵付け、窯元など、各工程を専門の職人が分業することで、効率的な生産体制を確立しているためです。

伝統的な唐草模様の「くらわんか碗」に代表されるような素朴なものから、近年では水玉柄やカラフルなもの、北欧テイストのシンプルでモダンなデザインまで、 非常に多岐にわたります。

ティーカップ

有田焼のティーカップ

有田焼【佐賀県有田町】

17世紀初頭、朝鮮人陶工・李参平によって有田の泉山で磁器の原料となる陶石が発見され、日本で初めて磁器が焼かれました。 それまでの日本の焼き物(陶器)とは異なり、ガラス質を多く含む陶石を高温で焼き上げるため、硬く丈夫で、透き通るような白い素地(白磁)が特徴です。

有田焼のベースとなる白磁は、その名の通り、非常に白く透明感があります。この真っ白なキャンバスに、様々な絵付けが施されます。 薄く繊細な見た目に反して、高温で焼かれる磁器であるため非常に硬く耐久性に優れています。 そのため、美術品としてだけでなく、日用食器としても広く使われています。

ベンジャロン焼のティーカップ

ベンジャロン焼【タイ】

かつては王室の食器として使われていましたが、現在では一般にも高級食器として普及し、食卓を彩るだけでなく、装飾品や贈答品としても人気があります。

サンスクリット語で「五彩(多色)」を意味し、その名の通り、赤、黄、緑、紫、紺青などの鮮やかな色彩を基調とした絵付けが特徴です。 現在では30色以上の色が使われることもありますが、古典的には五彩が基本とされています。 サンスクリット語で「五彩(多色)」を意味し、その名の通り、赤、黄、緑、紫、紺青などの鮮やかな色彩を基調とした絵付けが特徴です。 現在では30色以上の色が使われることもありますが、古典的には五彩が基本とされています。

職人が一つ一つ手作業で、非常に細かく緻密な模様を描き込みます。 その上から、豪華な金彩(金色の縁取りや模様)が施されるのが大きな特徴で、これがベンジャロン焼の華やかさと輝きを際立たせています。

花や草、炎などをモチーフにしたタイの伝統的な文様がよく描かれます。 これらの模様は、左右対称の幾何学的な配置で表現されることが多く、独特のエキゾチックな美しさを生み出しています。

焼成された白い磁器の表面に、色絵具で絵付けをし、再度低温で焼き上げる上絵付けの技法が用いられています。 これにより、絵具が盛り上がり、立体感や艶やかな光沢が生まれます。

セラドン焼のティーカップ

セラドン焼【タイ】

タイ北部のチェンマイを中心に生産される陶磁器で、その最大の特徴は、翡翠のような深く美しい「青磁(せいじ)」の色合いと、 貫入(かんにゅう)と呼ばれる細かいひび割れにあります。

セラドン焼きの最大の魅力は、独特の青緑色です。これは、鉄分を含む釉薬を還元焔(かんげんえん)焼成(酸素を制限した状態で焼くこと)することで発色します。 その色合いは、翡翠(ひすい)や古いエメラルドのような深みと透明感を持ち、光の当たり方や見る角度によって微妙に表情を変えるのが特徴です。

焼成後に冷める過程で、釉薬と素地の収縮率の違いにより表面に現れる、網目状の細かいひび割れのことです。 これは意図的に作られるもので、セラドン焼きの大きな特徴の一つであり、器に趣と奥行きを与え、一つとして同じものがない「唯一無二」の表情を生み出します。

装飾は比較的シンプルで、象、蓮の花、蘭、竹などのタイの自然や文化に根ざしたモチーフが、エンボス加工(浮き彫り)や線彫りなどで表現されることが多いです。 過度な装飾はせず、色と形、そして貫入の美しさを際立たせています。

磁器のように薄くなく、陶器寄りの厚みのある素地で作られることが多く、手触りもあたたかく、手に馴染みやすいのが特徴です。 多くのセラドン焼きは、今も職人の手によって一つ一つ丁寧に作られています。そのため、機械生産にはない温もりや個性が感じられます。

小皿

益子焼の小皿

益子焼【関東地方/栃木県】

派手さや繊細さよりも、普段の食卓に自然と溶け込むような、温かみのある素朴な風合いが特徴です。丈夫で厚みがあり、日常的に使いやすい形や大きさが重視されています。 益子の陶土は砂気が多く、鉄分を多く含むため、焼き上がりが少し粗く、ざっくりとした土の感触が残ります。 この土味が、益子焼独特の温かみと手作りの風合いを生み出しています。

柿釉(かきゆう:赤褐色)、飴釉(あめゆう:飴色)、糠白釉(ぬかじろゆう:乳白色)、青磁釉、黒釉など、様々な釉薬が使われます。 これらの釉薬が、土の質感を活かしながら、深みのある色合いや豊かな表情を作り出します。 特に、刷毛目(はけめ)や流し掛け、指描きなどの技法で模様を施すことも多く見られます。

柳宗悦(やなぎむねよし)らが提唱した民藝運動において、その精神を体現する焼き物として高く評価されました。 日常生活で使われる「用の美」を追求し、職人の手仕事による温もりと個性を大切にする姿勢が、益子焼の根底にあります。

多くの窯元や陶芸家が存在し、それぞれが独自の作風を持っています。 伝統的な作風を守りつつも、現代のライフスタイルに合わせた新しいデザインの器も多く生み出されており、常に進化し続けています。

益子焼の小皿

壺屋焼【沖縄県】

壺屋焼には大きく分けて2つの種類があります。 荒焼(あらやち): 釉薬をかけずに高温で焼き締めるもので、赤土そのままの力強い素朴な風合いが特徴です。 泡盛の容器である「抱瓶(だちびん)」や水甕(みずがめ)、シーサーなどがこれに当たります。 土の温もりや力強さがダイレクトに感じられます。 上焼(うわやち): 釉薬をかけて焼き上げるもので、食器や花器などに多く用いられます。釉薬の種類や絵付けによって、多様な表情を見せます。

上焼では、魚、海老、唐草、点打ち、線彫りなど、沖縄の豊かな自然や、琉球王朝時代から伝わる独自の文様が描かれます。 絵付けは筆で大胆に描かれることが多く、素朴で力強いタッチが特徴です。

透明釉、飴釉、糠釉(ぬかゆう)、緑釉、コバルト釉(琉球ブルー)などが使われます。 特に、焼成時に溶けた釉薬が流れるような「流し掛け」の技法は、壺屋焼の個性的な表情を生み出します。 沖縄の青い海や空、豊かな緑を思わせる色合いが魅力です。

琉球王国時代から、中国や東南アジア諸国との交易を通じて、様々な技術やデザインが取り入れられてきました。 これにより、壺屋焼独自の多様な表現が生まれました。